石井桃子さん

tamago-ayako2008-04-03

今朝、朝刊に目をやると、「児童文学者 石井桃子さん死去 101歳」の記事が1面の端にあった。昨日の午後に、老衰のため亡くなったということだった。昨年は、100歳になったという記事やインタビューなどを新聞や雑誌で時々目にし、90歳を過ぎても翻訳や改訳を続ける姿に驚いていた。私が心底尊敬する人の1人だった。おそれながらだけれど、あんなふうに生きられたら…と。春奈の名前を考える時、候補に「桃子」も挙げていたくらい…。


石井桃子さんが、児童文学の仕事に携わっていなかったら、日本の子どもたちの前に広がる児童文学の世界は、今とはまったく違ったものになっていただろう。石井さんが手掛けた絵本や児童書を一度も目にすることなく大人になる子どもは、日本には1人もいないのではないか…。翻訳では、「クマのプーさん」シリーズ、「ピーターラビット」シリーズ、「うさこちゃん」シリーズ、岩波少年文庫の『トム・ソーヤーの冒険』、福音館書店の『ピーター・パンとウェンディ』…。
私の最初の絵本の記憶は、石井桃子さん訳の「うさこちゃん」だと思う。

ちいさなうさこちゃん (ブルーナの絵本)

ちいさなうさこちゃん (ブルーナの絵本)


「おおきな にわの まんなかに
かわいい いえが ありました。
ふわふわさんに ふわおくさん
2ひきの うさぎが すんでます。」
京子に石井さん訳の絵本を読んであげるようになってから、ひしひしと感じるようになったのだけれど、石井さんの訳文は、リズムと日本語の語感が読んでいて本当に心地いい。日本語のリズムと魅力を本当に知り抜いた人でなければ、こんな訳はできない。そして、石井さんは常にその言葉を受け取る子どもの姿を思い描いていたに違いない…と、京子にせがまれるまま繰り返し読み重ねるほどに私は確信するようになり、石井さんが紡ぎ出した言葉をますます好きになっていった。

「それから まもなく ほんとうに
かわいい あかちゃんが うまれました。
ふわおくさんたちは あかちゃんに
うさこちゃんと なを つけました。」


石井さんは、自宅の一部を開放して、子どものための家庭文庫「かつら文庫」を開いたことでも知られる。今、その活動は、「東京子ども図書館」に引き継がれている。


石井さん死去の記事を読んだ後、実家の近くの桜を見に行った。川のそばの桜は、満開を少し過ぎて散り始めていた。川べりまで下りると、桜の枝を渡るひよどりの鳴き声が聴こえ、すっぽりと穴の中に入ったみたいに静かだった。





心の中で、今日の桜を石井さんに捧げたいと思う。