初夏の散歩

マンションの近くで、毎日うぐいすの声が聴こえる。早朝や、ベランダに洗濯物を干しているとき、うぐいすの澄んだ声を聴くのは本当に清々しいものだ。少し前からホトトギスの声も聴こえるようになった。夜、京子がやっと寝入り、夫は本を読み私は新聞を開くなどしていたら、外の静かな闇の中から「キョッキョッキョキョキョ…」という戸を叩くような軽やかな声が聴こえてきた。「…ホトトギスや」と私が言うと、「可愛いなあ」と夫。卯の花の咲く頃に鳴く、初夏の鳥。『源氏物語』の「花散里」の場面や古来から詠まれてきたいくつもの和歌を思い起こす。ホトトギスは夜にも鳴くが、朝や昼間にもよく鳴いている。うぐいすやホトトギスの声が聴こえるとき、ほっと心が澄み渡っていく。もうすぐ夏が来る。この町では、夏の夕暮れにヒグラシの声を聴くこともできる。訪れる季節ごとに、その季節にふさわしい小さな生き物たちの声に耳を傾けることができるのは、なんともいえない幸せだ。この町への愛着が、季節ごとに深まっていくのを感じている。
この頃は、涼しくなった夕方に京子をベビーカーにのせて散歩に出かけるのが楽しみ。雨が降っていなければたいてい出かけるので、あいさつをする顔なじみの人たちがだんだん増えてきた。夕方に家の外に出て涼んでいるおばあちゃんや、水撒きをしている園芸店の夫婦や、毎日同じ時間帯に働いているセブンイレブンのおばさんなど…。京子と一緒にいるといろんな人が声をかけてくれる。馴染みのクリーニング屋さんでは「お祝いに」とおしゃれ着洗い用の洗剤を頂いたし、セブンイレブンではアルバイトの女の子も駆け寄って来て親切にドアを開けてくれる。京子とふたりの帰り道、なだらかな山並みを眺めながら、なんとも居心地よく静かな気持ちになっている。