アマレット・ロック

雨の3月22日。母の誕生日だ。55歳になる。
夕方、近くのケーキ屋さんにケーキを買いに行った。弟は「まるいケーキを買ってきて」と言ったが、フルーツのいっぱいのったフルーツロールにした。雨の中、転ばないように大事に持ち帰った。夕食後に「おめでとう」と言ってみんなで食べようと思う。
最近、友人に長らく貸していた本が返ってきた。『冷静と情熱のあいだ』2冊。久しく読んでいなかったので、ゆっくり読み返した。もっとも私は辻仁成の書いた「Blu」より江國香織の書いた「Rosso」のほうが好きで、両方を交互に読んだりして楽しむときもあるけれど今回は「Rosso」しか読んでいない。江國さんのこの作品の文章は、ミラノの街の匂いの濃厚さがいい。主人公「あおい」の後半の生活のつつましさに、今回はなぜだかとても惹かれた。
この作品には、アマレットというお酒がよく出てくる。ミラノの夜、あおいがクリスタルのカットグラスで、ロックやソーダ割りにして寝る前によくのんでいる。銀座で食事をしたときに、メニューの中にアマレットを見つけて一度だけ飲んだことがある。あおいがアマレット・ロックをのむ場面を読むたびに、どんな味のするお酒なのだろうと憧れていた。ロックで飲んだアマレットは、とても甘くて香りのいいお酒だった。杏子の核を中心に17種類ものハーブや果実を配合したものとスピリッツ、砂糖をブレンドして作られるリキュール。おかわりして2杯飲み、帰りの地下鉄はかなりいい気分だった。
久しぶりに『冷静と情熱のあいだ Rosso』を読み返して、やっぱりアマレット・ロックが飲みたくなった。願わくばあおいのようにクリスタルのカットグラスで(…持っていないので欲しい)、大きくてなめらかな氷を舌の先でつつきながら甘さを味わいたい。妊娠以来、お酒はほとんど口にしなくなっているので、出産後に落ちついてからのひそかな楽しみにとっておこう…。