ひとりの範囲

出産を前に、髪を切りに行った。
岐阜では弟と同じ美容室に行っている。母が通った高校のすぐそばにある小さな美容室。
オーナーのMさんという美容師さん(男性)とアシスタントの女の子が1人。店の奥、シャンプー台のそばには黒光りした昔ながらのポンプ式の井戸が残されていて、大きな黒い甕にいつもいっぱいに水が満たしてある。白い小さな丸ストーブの上に置かれた銅のミルクパンや、シンプルな茶の革張りのソファ。お客さんはいつも1人ずつだ。Mさんが1人でできる範囲で開いているお店のスタイルがいいなと思う。心が落ち着く。
今日は思いきって短く切ってもらった。外は雨だけれど、今日も暖かい。そんな話をしながら店の前に植えられた桂の木が芽吹くのを思い浮かべた。