ゆとり

夫と夜な夜な童謡を覚えている。何年か前にたまたま書店で見つけていつか役に立つと思い、思わず買った『伴奏つき こどものうた』(野ばら社)のページを繰りながら。童謡が伴奏楽譜つきで200曲近く載っていて、重宝な一冊である。
ふたりで京子に童謡を歌ってあげようとして、なかなか通して歌える童謡がないことに気がついた。どこか歌詞があやしいのである。ふたりとも自信をもって完璧に歌えるのは韓国ドラマ『チャングムの誓い』の主題歌「オナラ」ぐらい?…というわけで、童謡を改めてちゃんと歌詞を見ながら歌ってみると、童謡の詞にはなんともあたたかな世界や言葉があふれていることに気づく。
私が小さい頃から好きな歌のひとつが「七つの子」。中間部の「可愛い 可愛いと 烏は啼くの  可愛い 可愛いと 啼くんだよ」というところ。1人で何度も何度も繰り返し歌っていた。メロディーの流れも優しくて好きだった。今改めて歌ってみると、現代の町でやっかいもの扱いをされがちなカラスに、なんてやさしい目を向けている詞なのだろうと思う。赤とんぼやうさぎや山のおさる…童謡にはたくさんの生きものたちが登場する。どんぐりも花もお月さまも子どもたちと友だちになり、語りかけてくれる。詞を書いたひとの目や心のゆとりと、何か自分が忘れそうになっている大切なものを感じるのである。
谷川俊太郎さんは「ゆとり」のことを「心を動かすことのできる空間、あるいは隙間」といった。ときに心のゆとりを失くしそうになる私のこのごろだけれども、夫婦で娘のために童謡を歌うひととき、そんな空間や隙間をまた少しずつ取り戻せたらな…。